女心と秋の空

「女心と秋の空」
 「女性の気持ちというのは、まるで秋の空のように変わりやすく移り気である」という意味のことわざです。これは女性が男性に対して抱く愛情のことだけではなく、個人的な感情、考えや決意などを含めて「コロコロと変わる」という意味もあり、加えて「起伏が激しい」「笑ったり泣いたり、気持ちがよく変わる」などというニュアンスも含まれています。

 

 もともとは「男心と秋の空」です。男性の変わりやすい心を例えていますが、主に女性に対する愛情が変わりやすいことをさしています。
「男心と秋の空」

 ことわざができたのは江戸時代です。当時は既婚女性の浮気は命を落とすほどの重罪でしたが、既婚男性の浮気には寛大だったこともあり、移り気なのはもっぱら男性でした。また、若い娘に男性を警戒するよう戒めたり、ふられた際の未練を断ち切る慰めにも使われました。江戸時代の俳人・小林一茶は「はづかしや おれが心と 秋の空」という俳句を詠んでいます。

 

 それ以前の和歌でも男心は移ろいやすいものとして扱われ、室町時代の狂言『墨塗』に「男心と秋の空は一夜にして七度変わる」という有名なセリフがあります。

 

 「女心と秋の空」と言われるようになったのは、明治時代の尾崎紅葉の小説『三人妻』に「男心と秋の空」がでてきますが、「欧羅巴の諺に女心と冬日和といえり」と続きます。おそらくこれは、イギリスの「A woman‘s mind and winter wind change often」(女心と冬の風)ということわざのことで、強風や弱風に変化しやすい冬の風を女心にたとえたもの。この頃から変化の兆しがみえてきます。

 

 その後、大正デモクラシーで女性の地位が向上すると、恋愛の価値観も変わります。当時、一世を風靡した浅草オペラで、『風の中の 羽のように いつも変わる 女心――』と歌う『女心の歌』が大ヒット。西洋文化の影響で女性が素直に意思表示できるようになったこともあり、この頃から「女心と秋の空」とも言われるようになりますが、愛情に限らず、喜怒哀楽の感情の起伏が激しいことや物事に対して移り気なことを示しており、男心とは少しニュアンスが違うようです。

 

 昭和に入って徐々に女心も定着していきますが、あの『広辞苑』に初めて掲載されたのは1998年の第5版でした。今でも、ほとんどの辞書が男心をメインにしており、女心が載っていない辞書もあります。

 

 低気圧と高気圧が日本の上空を交互に通るため、お天気が変わりやすいのもこの時季の特徴で、これを変わりやすい人の心になぞらえ、「男心と秋の空」「女心と秋の空」と言うようになりました。

 

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